第2回 Invest
金融関係者の主要日常語
Investはご存知の通り、金融ではもっぱら利益の獲得を狙いとしてお金をつぎ込むという意味の「投資する」という意味で使われることが多いと思います。
この名詞形である「インベストメント」は非常によく使われており、ある検索エンジンで「インベストメント」と検索すると、何と86万件あまりのヒットがありました。
また、金融業界で使われている日本語の言語としてよく出てきます。
・投資家・・・Investor
・投資信託・・Investment trust
・会社の株主向け広報活動・・・Investor Relation (IRと略されます)
・投資顧問・・Investment advisor
・投資銀行・・Investment bank
無理に訳を使わなくても、金融に携わっている人たちであれば、日常的に「インベストメント○◯」という表現を使っていると思います。このように、金融関係者の主要日常語である「インベスト」「インベストメント」ということばは、どこから来たのでしょう?
語源はラテン語
語源を調べると、ラテン語の"investure"ということばに行きつくそうです。このことばは「中に」という意味の"in"と「着物などを着せる」という"vesture"の合成となっています。このラテン語が、フランス語やイタリア語などを経由して英語に入り込んだものと思われますが、もともと権力や地位の象徴である「衣服を着用させる」という意味で使われていたようです。
この「着せる、まとわせる」が転じて、人をある地位、官職につける、財産や権利を与えるという意味のことばになったようです。
この"invest"ということばが、初めて英語の歴史に登場するのは、15世紀の初頭のようで、東インド会社の貿易について書かれた文書に出てくるそうです。東インド会社の設立は1600年。日本では関ヶ原の戦いで徳川家康の東軍が石田三成率いる西軍を破った年です。
「ベスト」はチョッキ?
この"invest"に近いことばに"vest"があります。日本語では「ベスト」("best"=最良という意味の「ベスト」と区別するために「ヴェスト」と書くべきなのでしょうか?)というと上着、チョッキという意味で使われる方も多いのではないでしょうか?
しかし、金融界にいらっしゃる方であれば、これが「インベストメント」と縁のあることばであることを覚えていても損はないと思います。この"vest"は動詞として使われる時には「着物を着せる」とういう意味を持っており、これが転じて「権利や財産を授ける、与える」という意味合いも持っています。先の「インベスト」の説明に近いでしょう?
"Vest"のこんな使い方
例えば、"Vest"が「権利を付与する」という意味であることを覚えておくと、次のようなことばの訳語として"vest"が使われていることが理解しやすくなります。
・既得権・・・vested interest
この"vested interest"ということばは、日常会話でも次のような使われ方をしますので、ご紹介しておきます。
He must have a vested interest in making that company profitable because he is one of its owners.
(彼はあの会社のオーナーのひとりだから、会社が儲かるようにすることに関心があるはずだ。)
・年金受給権・・・vesting
最近では、確定拠出年金制度における転職時の積立金の移転可能性(ポータビリティ)に関し受給権ということばが注目を浴びました。本家本元のアメリカでは401(k)プランの設計の際、この受給権付与の条件を定めた表をvesting schedule(受給権付与条件テーブル)と呼んでいます。
投資の反対語は?
読書の皆さん、投資の反対語って何でしょう?英語辞書で"invest"と引いたところ、反対語で"divest"という単語が出てきたことがこの質問の発端です。"divest"ははたして何と訳すのだろうかと考えた時、例えば「賛成」に対する「反対」のような漢字二文字で表すことのできる単語がないことに気がつきました。あえて訳す時は「出資を引上げる」「株式を売却する」などの表現になります。
このようなことも、実は外国語を学ぶ楽しさのひとつです。日本語だけでコミュニケーションをとっているときには気づかないことに気がついたりするのです。このように、日本語では一言で表現できない外来語を器用に取り入れてしまうことも、日本語の特質のひとつです。
でも、"divest"にあたる二字熟語がないのは、不思議だと思いませんか?これまであまり使われなかったからかもしれませんが、買収合併が当たり前になった昨今、新たな造語の必要があるかもしれませんね。
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